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大阪家庭裁判所 昭和50年(家)2925号 審判

昭五六(家)一八九号申立人、昭五〇(家)二九二五号相手方

松尾泰隆

昭五六(家)一八九号、昭五〇(家)二九二五号相手方

宮永隆三

他一名

昭五〇(家)二九二五号申立人

佐野幸子

被相続人 宮永春吉

主文

1  別紙I遺産目録中第一項記載の各不動産は、それぞれに付、持分申立人佐野幸子二分の一、申立人松尾泰隆、相手方稲田薫および同宮永隆三ら各六分の一宛とする共有取得とする。

2  遺産中現金は、内金六、一五〇、〇〇〇円は申立人松尾泰隆の、同金六、三七〇、〇〇〇円は相手方稲田薫の、同金六、三〇〇、〇〇〇円は相手方宮永隆三の取得とし、その余は全部申立人佐野幸子の取得とする。

3  別紙I遺産目録第三項記載の株券は右同項に記載の配分表どおり各人の取得とする。

4  同目録第四項1乃至3、第五項1に記載の証券類につき、転換社債全部(同目録第四項1乃至3、元金と利息を含む、以下同様に利息、分配金付のものはその果実を含む)、国際フアンドおよび二月公社債は申立人佐野幸子の、四月公社債は申立人松尾泰隆の、コクサイおよび積立株式フアンドは相手方稲田薫の、そうして一二月公社債、オープンおよび○○農業協同組合出資証券は相手方宮永隆三の各取得とする。

5  本件調停並に審判手続費用中、鑑定費用金一五〇、〇〇〇円は、申立人松尾泰隆、相手方稲田薫および同宮永隆三の均等負担とし、その余の費用は各自の負担とする。

理由

当裁判所は、本件各記録および本件関連事件(昭和五〇年(家イ)第七八六号財産分与並に同五二年(家イ)第四七三八号遺産分割各申立事件)記録にあらわれている諸資料により、以下の記述の各事実を認定し、その他諸般の事情を考慮して、次のとおり判断する。

第一被相続人について

被相続人は昭和四九年一一月二八日大阪市○○区で死亡、同日相続が開始した。

第二相続人

被相続人には後述のとおり内縁の妻申立人佐野幸子がいるが、この間に子はなく、両親は既に没しており、結局相続人としては、相手方長兄宮永隆三同妹稲田薫および長姉亡松尾道子(昭和六年一二月二一日没)の子で代襲者たる申立人松尾泰隆らである。

従つてその法定相続分は各三分の一宛となる。

第三遺産の範囲について

1  ところで、本件遺産については、申立人佐野幸子から財産分与の申立がなされている。

そこで検討するに以下の事実が認められる。

(1)  申立人佐野幸子と被相続人とはその先妻没後の昭和二三年七月頃見合いの上、挙式同棲するに至つたものであるが、右申立人は初婚であつた。

(2)  右結婚当初被相続人は医師で吹田市内の診療所に勤務していたが、同二五年頃右同所を退職して高知県○○町々立診療所に勤務、この際は申立人は大阪に留まり、被相続人は謂ゆる単身赴任した。

(3)  同二九年七月頃被相続人は大阪に戻り、その最後の住所となつた申立人幸子の現住所地で当初は外科の、間もなく内科小児科に変えた○○病院を開設、看護婦一人又は二人位置いてやつて来たが、この頃右申立人も窓口事務を始め調剤・外科手術などの手伝いもして来た。

(4)  同四八年一月頃同病院を閉鎖、被相続人は茨木市に所在の○○○○診療所に勤務するに至つたが、右同年八月頃右同人は病気になり、○○病院に入院、一旦同年一一月頃退院し自宅療養をして来たが、翌四九年一一月二八日○○病院に入院、右同病院で前記のとおり死亡するに至つた。

なお、同申立人はこの臨終に立会つている外、右入院中および自宅療養などにおいて、被相続人の身の廻りの世話や食事などの世話をして来ていた。

(5)  ところで、申立人幸子と被相続人との婚姻届出については、右申立人において、被相続人が最後に入院をしていた際、相手方宮永隆三の子啓二に依頼して届出ようとしたりしたが、結局その理由は詳かでないが、受理されるに至らず、ともあれ婚姻届出は未了となつているものである。

2  以上の事実によると、申立人幸子と被相続人とは事実上夫婦関係にあつたことは認められるものの、ともあれ婚姻届出はなされておらず、謂ゆる内縁関係にとどまるものであることが認められるところ、かかる内縁関係にある者の一方から他方に対して財産分与をなし得ることについては、現在異論を見ない。

ところで本件は当事者の一方が、つまりその「相手方」死亡に関するものであるが、かかる場合も財産分与の本質が夫婦共有財産の清算性を中核とするものと解する限りでは、生前における解消たると死亡による解消たると彼此区別すべき合理的理由に乏しいこと、財産分与に対応すべき義務(一身専属性たる性質に基くものを除く)の相続性は認められるべきであること等からすれば、この場合その相続人を相手方とする財産分与を肯定すべきであると考える。

然して財産分与に関する民法七六八条における財産分与請求の要件たる「離婚」も前記財産分与の本質からする限りで、その清算の契機はその身分変動そのものに意味があるのではなく、右身分変動に必然的に伴う夫婦共有財産の形成母体たる夫婦共同体の解体にこそその実質的根拠を求め得べきものであることは明らかというべきであるから、だとすれば夫婦共同体の解体の一場合たる死亡による内縁関係の解消の場合にも右同条の類推適用を認められるべきであり、従つて又家事審判法(同法九条)の適用も認められるべきであると解するを相当とする。

かく解したにせよ内縁関係をより以上に保護するものというに当らず、むしろ、生前解消によつて求め得たところのものを、終生協力関係にあつた死亡による場合においてこれを失わしめることの合理的理由は見出し難く、漫然その相手方の相続人にこれを全て取得せしめることは、不当に利得せしめるものとして公平の観念からも、到底許容し難いものという外はなく「片手落ち」のそしりを免れない。

そうして又この場合包括財産の分配たる方法による財産分与の制度に依らしめ、審判手続に依らしむるのが実際的であろう。

以上本件の如く死亡による内縁解消の場合についてもその相手方即ち死亡配偶者の相続人を相手方として財産分与請求を認めるを相当とする。

3  そうして、前記認定の事実によると、本件の場合その配偶者たる被相続人の職業が医師で相当期間個人の開業医をなし、この間申立人幸子も窓口事務を始め、手不足の場合看護婦の補助するなど協力して来たことが認められるところであり、ともあれその同棲期間が二〇年余に及びこの間もとより主婦としての協力関係があり、以上彼此勘案すると申立人幸子に分与すべき財産はその遺産の二分の一宛相当が妥当と思料する。

4  そうすると、相続人らに分割すべき被相続人の遺産は結局別紙I遺産目録記載中申立人幸子に対する分与分を控除したその残、即ち二分の一宛相当分である。

第五具体的財産分与分および具体的相続分額

別紙II試算表2のとおり。

第六取得物件についての当事者の意向

申立人佐野幸子には同人の現住家屋に引き続き居住したいので、本件分与については右の点を考慮して欲しい旨の意向を示した外は、申立人松尾泰隆および相手方稲田薫は財産を指定して取得したいものはなく裁判所に一任する旨を述べた。

なお、相手方宮永隆三は不動産を処分し一括現金化して分割することを望む旨の意向を示している。

第七本件財産分与並に遺産分割について

本件の如く、要するに被相続人の遺産について財産分与と遺産分割が併合され同時的になし得る場合については、右財産分与請求権者並に相続人らの遺産に対する各具体的分与又は分割分額割合を基準として、右各人らの希望意見及び現在の生活関係などを斟酌し、両事件総合して適宜配分するを相当と思料する。

そこで検討するに前記認定の事実によると申立人佐野幸子は本件遺産である土地・家屋には既に約三〇年間居住して来たことが認められ、謂わば同居住家屋は右同人にとつて住み馴れた場所であること、他方右同人は六二才の老女で、被相続人没後は未亡人となり、且子など確かと頼るべき身寄りがないことが認められるので、本件は主として右同人の居住確保と併せてその生活費も考慮すべき要があること、して見ると相手方宮永隆三が主張する如く、前記不動産を売却し換金の上での分割は相当でなく、この点右相手方隆三を除く他の相続人らは申立人佐野幸子の境遇に理解を示し、必ずしも右売却には固執しない旨の意向を明らかにしているところでもある。

以上の次第で、本件については、以上の事情およびその他前記認定の諸般の事情更には別紙IIの試算表の結果(なお、試算上不動産および株券については、同一物件又は単一銘柄について、配分割合に従つて共有し或は取得せしめるのが公平であると思料し、これらを試算対象から除いた)を参酌して主文記載のとおり財産分与並に遺産分割するを相当と認めた。

第八結果

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 丸藤道夫)

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